ニワトリの遺伝子改変技術の開発と応用
ニワトリは卵や肉として我々の食生活を支えるだけでなく、発生分野などで古くからモデル生物として用いられてきました。また、インフルエンザワクチンの他にも、ニワトリ卵白で生産された最初の組換え医薬品が我が国においても臨床に供されるなど医薬品を生産する上でもその有用性が示されています。ほ乳類に比べ遺伝子工学的技術の発達が遅れていましたが、将来精子・卵子となる始原生殖細胞を長期培養して遺伝子操作した後、ニワトリ個体まで発生させることができる様になってきました。医薬品の質を決める糖鎖や始原生殖細胞の分化・増殖メカニズムについて研究を進めています。

<最近の成果>
鳥類は大きな卵黄を持つため、受精卵や卵子の凍結保存はできません。また、一細胞期の胚は一羽のメンドリを解剖してようやく1個得られるだけであり、ほ乳類で実用化されている胚の遺伝子操作技術をそのまま適用することもできません。将来精子・卵子となる唯一の胚細胞である始原生殖細胞は、凍結保存が可能で、近年培養も可能となってきました。希少鳥類種を凍結保存するにしても、ゲノム編集を含めた遺伝子改変を行って新たなモデル鳥類を作製するにしても、始原生殖細胞はカギとなる細胞と言えます。
鳥類の始原生殖細胞の分化メカニズムの研究はほ乳類に比べて大きく遅れています。私たちは、転写調節因子の一種であるPRDM14やBLIMP1が、ニワトリ発生の初期段階で始原生殖細胞の増殖に必要であることをはじめて見出しました。ニワトリを始めとして鳥類の生殖工学への展開が期待されます。現在は、ゲノム編集によりPRDM14の代わりにEGFPを発現する(ノックイン)ニワトリの作製に成功しています。

PRDM14 mRNAの始原生殖細胞での発現。矢印が始原生殖細胞になります。発生のごく初期では胚の他の細胞でも発現していることも明らかとなりました。
発生初期の胚でPRDM14やBLIMP1の発現を抑制すると、始原生殖細胞の数が減少することが示されました。
