脊椎動物の発生過程における3D形態形成のメカニズムの解明

近年の計測技術の急速な進展により、発生中の1細胞レベルの挙動を経時的に観察することが可能となりつつあります。しかし個々の細胞の挙動から器官全体の形態形成を理解するには未だに多くのギャップがあります。さらに多くの脊椎動物の器官は3次元かつ不透明であり、すべての細胞の挙動を一度に解析する事は極めて未だに困難です。このギャップを埋める為に、私たちは器官や組織の中の細胞集団の Anisotropy(単位時間当たりの組織内の特徴的ゆがみ)を定量的に計測する事で、細胞集団の変形から器官全体のマクロな形を理解する方法を提案してきました。本研究では観察のしやすいニワトリ胚後肢の発生をモデルとしてこの方法を適用し、どのような生化学的・力学的なシグナルが細胞動態の変化に結びつき、手足の原基である肢芽(しが)全体の3次元の伸長が誘導されるのか解明を目指します。このような私たちの研究成果により、今後試験管内で器官を培養させて発生•再生させる時にどのように形態形成を制御していけばよいのか理解するための基礎データにつながることが期待されます。

<最近の成果>

マクロな器官全体の形態変化を定量的に解析するための方法論の確立

ニワトリ胚肢芽(手足の原基)など共焦点顕微鏡ではもはや解析出来ない細胞数が多い器官の全体の形態変化を解析する手法はこれまでありませんでした。私たちは理化学研究所の森下喜弘博士との共同研究により、蛍光色素を用いて相対的な細胞集団の位置関係をベイズ推定を用いて定量的に解析することで、肢芽全体の組織が単位時間当たりに特徴的に増殖する領域や変形率が大きい領域を視覚的に抽出する方法を構築しました。このようにある時に組織の形態変化が大きい領域を、私たちは“Morphogenetic hot spot”と命名しました(Morishita and Suzuki, J. Theor. Biol., 2014)。

蛍光色素のラベル方法

赤色)とDiO(緑色)の蛍光色素をニワトリ胚後肢芽にランダムにラベルした様子を示す。

器官全体の内部の形態変化の様子

1でラベルした蛍光色素の場所を元に、ラベルされていない場所も含めた肢芽全体の内部の細胞集団の変形をベイズ推定を用いてシミュレーションを行った。

次にこの手法を用いて発生中のニワトリ胚後肢の器官全体の変形パターンを解析した結果、肢芽の発生においてMorphogenetic hot spotを3つ見つけることに成功しました。これらは①肢芽形成初期の遠位側の部分、②中期の後側の部分、そして③後期の第1指が形成される領域でした。この領域がどのような生化学的なシグナルによって細胞集団の顕著な変形が誘導されているのかを阻害剤を用いた解析から検討した結果、それぞれ①の部分の形態変化にはFGFシグナルが、②の部分の形態変化にはSHHシグナルが関与していることが明らかとなりました (Morishita et al., Development, 2015)(Suzuki and Morishita, Curr Opin Genet Dev, 2017)。

Morphogenetic hot spotの抽出

2で解析した内部の変形パターンから、組織の増殖率(左)と組織変形の異方性(右側)の2つの特徴量を抽出したヒートマップを示す。

今後の期待

これまでの私たちの研究成果から、組織から器官へのスケールの階層を超える形態形成の理解のための新しい手法が構築されました。今後は、私たちが開発した手法を肢芽以外の様々な器官に適用することで、現在世界中で行われている1細胞レベルにおける細胞集団の動態の研究成果が器官全体の形態全体の形態形成の理解へとさらにスケールの階層上昇性の理解に結び付くと思います。

 このような私たちの研究成果は、今後試験管内で器官を培養させて発生•再生させる時にどのように形態形成を制御していけばよいのか理解するための基礎データにつながることが期待されます。

引用文献

Suzuki T., Morishita Y. A quantitative approach to understanding vertebrate limb morphogenesis at the macroscopic tissue level.

Curr Opin Genet Dev., 45, 108-114. doi: 10.1016/j.gde.2017.04.005. (2017)

 

Morishita Y, Kuroiwa A, Suzuki T.

Quantitative analysis of tissue deformation dynamics reveals three characteristic growth modes and globally aligned anisotropic tissue deformation during chick limb development.

Development., pii: dev.109728. (2015)

 

Morishita Y. and Suzuki T.

Bayesian inference of whole-organ deformation dynamics from limited space-time point data.

J Theor Biol., 357, 74-85 (2014)