ニワトリの突然変異形質に着目した原因遺伝子の同定とその機能に関する研究

ニワトリは、生命現象を司る未知の機能遺伝子や鳥類特有の形態形成の謎を解明するための重要なモデル動物です。ニワトリは、約8500年前にその主たる野生原種である赤色野鶏から家禽化され、長い年月を経て世界各地に伝播し、多種多様な品種や系統が生み出されてきました。また、体型や鳥類特有の鶏冠、羽色、羽装などの形態的な表現形質においても、赤色野鶏が保有する野生型(単冠、雌雄二型の赤褐色羽装、白色の皮膚、鉛色の脚など)に対し多様な突然変異形質が発見され、これまでに遺伝様式がわかったものだけでも、その数は190にも及びます。しかし、これらの突然変異形質の多くは原因遺伝子がいまだ不明であり、形質発現の分子基盤についてもわかっていません。

2004年12月にニワトリのドラフトゲノム配列が発表され(Nature 432, 695‒716, 2004)、現在では1-28番、32番染色体、LGE64、LGE22C19W28_E50C23連鎖群とZ、W染色体のゲノム情報をもとに、ニワトリでも候補遺伝子アプローチによる突然変異遺伝子の探索が可能となりました。そして、ニワトリゲノム情報を利用して、これまでにいくつかの羽装や鶏冠(バラ冠、マメ冠)の変異、多指、矮性などの原因遺伝子が同定され、今後も加速度的にその数が増加していくことが予想されます。

名古屋大学大学院生命農学研究科附属鳥類バイオサイエンス研究センターには、まだ原因遺伝子が同定されていない数多くの突然変異体が保存されています(図12)。私たちは、遺伝学、発生学、分子生物学、ゲノム科学などの様々な手法を駆使して、これらの突然変異形質の原因となる遺伝子を同定し、その機能を解明することによって、鳥類特有の形態形成の遺伝学・分子発生学的メカニズムとその進化形態学的意義を解明することを目指して研究を進めています。

研究例1.mow 型と mo 型の羽装色突然変異の遺伝解析

ニワトリの碁石(mo)と新規の白色(mow)羽装突然変異体の原因遺伝子がエンドセリン受容体B2遺伝子(ENDRB2)であり、塩基置換の違いによって異なる表現型が表れることを明らかにしました(図13)。

図13 エンドセリン受容体B2遺伝子(ENDRB2)にみられる突然変異とその表現型

研究例2.ファイブロメラノーシスの遺伝解析

 烏骨鶏(ウコッケイ)で有名な、皮膚だけでなく内臓や骨まで黒色のメラノサイトが沈着するファイブロメラノーシス(fibromelanosis)という突然変異形質があります。その原因遺伝子が、メラニンの産生に重要な働きをもつエンドセリンであり、この遺伝子の重複によってメラニンが過剰に産生され、全身に大量のメラニンが沈着することを、慶応大学との共同研究で明らかにしました(図14)。

図14 烏骨鶏の皮膚や臓器にみられるメラニンの過剰な蓄積(ファイブロメラノーシス)は、エンドセリン遺伝子(END)の重複によって引き起こされる。